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福岡地方裁判所甘木支部 事件番号不詳 判決

主文

被告人を懲役十月に処する。

未決勾留日数中百五十日を右本刑に算入する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は医師でもなく又電気医療器販売につき福岡県知事の指定を受けているものでもなく、且つその所持するドル、バイブレーターは電気器具店、理容器具店等で一般に市販され、何人も容易に入手できる時価約千五百円程度の普通の電気アンマ器で中風、小児麻痺その他の痼疾に特効がないのに拘らず、恰かも医師又は福岡県知事の指定を受けた電気医療器販売業者であるかのように告げ、右ドル、バイブレーターは九州大学、久留米医科大学、県立朝倉病院だけにあつて、未だ一般には入手困難な中風や小児麻痺に特効のある新しい特殊治療器で、高価なもののように装い、他人を欺罔して右器具の貸付け又は売却名義の下に金員を騙取しようと企て、

第一、昭和三十三年一月二十日頃、甘木市大字馬田堀内重夫方において、中風を患つている同人に対し、「この機械は中風などによく効く、あなたの中風なら今年三月頃までには癒つてしまう。この機械は普通の店には売つていない入手し難い品物であるから売るわけにはいかないが、要れば貸してもよい、」旨虚構の事実を申向けて、その旨誤信させ、即時同所で同人からドル、バイブレーターの保証金名義の下に現金二千二百円の交付を受けてこれを騙取し、

第二、同年一月二十一日頃、同市大字馬田大場勝方において、同人に対し、「自分は毎週二回県立朝倉病院にこの機械で治療に行つている。この機械は久留米医大と県立朝倉病院にあるだけで普通の店では売つていない入手し難いものである。この機械を小児麻痺にかければ四十日位もすれば手足が自由に動くようになる。今日は一台だけあるから希望があれば特別で売つてもよい、」旨虚構の事実を申向けて、同人をその旨誤信させ、因つて即時同所で同人から、ドル、バイブレーター売買名義の下に現金二千二百円の交付を受けてこれを騙取し、

第三、同年一月二十二日頃、同市大字馬田大場カツ子方において中風症を患つている家人を見て、右大場カツ子に対し、「この病人ならこの機械で毎日朝昼晩三十分間づつかけると三ケ月位すれば甘木まで歩いて行けるようになる。これは病院には売られるが個人には売られない機械であるが、お宅が要るならあげてもよい、」と虚構の事実を申向けて、同人をその旨誤信させ、因つて同所で同人からドル、バイブレーター売買代金名義のもとに現金二千二百円の交付を受けて、これを騙取し、

第四、同年同月末頃、同市大字馬田信国芳兵衛方において、同人に対し、「この機械をかければあなたの脳の具合も腰の痛みも三十日間位すれば癒つてしまう。この機械は普通の人には手に入らない。自分は毎週一回づつ県立朝倉病院にこの機械で治療に行つている。この機械は何処の店でも売つていないので入手し難いもので、普通なら売るわけにはいかないが、今日一台持つてきているからあなたが要るなら売つてもよい、」旨虚構の事実を申向けて、同人をその旨誤信させ、即時同所で同人からドル、バイブレーター売買代金名義の下に現金二千二百円の交付を受けてこれを騙取し、

第五、同年同月三十一日頃、朝倉郡三輪村大字原地蔵平田慶五郎方において、同人及び福田トモキに対し、「自分は県立朝倉病院の神経科に勤めている者であるが、この機械は昨年六月初めてできたもので九大や久留米医大で使つている。県立朝倉病院には三台あるが市販していない。奥さんの神経痛なら二ケ月もかければ癒ります。この機械は一個位なら売つてやつてもよい、」旨虚構の事実を申向けて、同人等をその旨誤信させ、即時同所で同人等からドル、バイブレーター売買代金名義のもとに現金二千二百円の交付を受けて、これを騙取し、

第六、同年二月二日頃、前同村大字原地蔵川上ヤエノ方において、同人に対し、「自分は国立病院(県立朝倉病院のこと)の神経科に勤めている者であるが、この機械をかけると、(主人喜七の)病気も六十日位もすれば立派に癒ります。この機械は一般には売つていない病院の患者用ですから、五年間保証つきで貸します、」旨虚構の事実を申向けて、同人をその旨誤信させ、即時同所で同人からドル、バイブレーター使用料名義のもとに現金二千二百円の交付を受けて、これを騙取し、

第七、前同日前同大字川上セキ方において、川上茂次郎に対し、「自分は県立病院(県立朝倉病院)の神経科に勤めている者であるが、この機械は最近できたもので、この附近では県立病院にしかなく、あなたの神経痛ならこの機械を二ケ月も使えば癒ります、この機械は普通の店では売つていない入手し難い品物であるが、今日は特別で要るなら二千二百円で売つてもよい、」旨虚構の事実を申向けて、同人をその旨誤信させ、因つて即時同所で同人から売買代金名義のもとに現金二千二百円の交付を受けて、これを騙取し、

第八、同年三月十七日頃、甘木市大字来春水城勝蔵方において、同人に対し、「中風なんか四ケ月位で癒る。この機械は久留米医大と福岡にしかないので甘木では買おうと思つても手に入る機械ではない。自分は県の指定を受けているもので時々来るが、自分が来られない時には看護婦を代りにやる、」旨虚構の事実を申向けて、同人をその旨誤信させ、因つて即時同所で同人からドル、バイブレーターの実験料及び診断料名義のもとに現金二千三百円の交付を受けて、これを騙取し、

第九、同年三月十九日頃、前同市大字相窪北島ムツ方において、同人及び大内田ハル子に対し、「自分は久留米医大に勤めている者であるが、この機械は九大、久留米医大、県立病院(県立朝倉病院)にしかない、普通の店には売つていない機械で、病院に行つても自由には手に入らない。あなた達の病気は二十日か三十日位で癒つてしまう、この機械は売るわけにはいかないが実験用として貸してもよい、」旨虚構の事実を申向けて、同人等をその旨誤信させ、因つて即時同所で右両名からドル、バイブレーターの使用料及び診断料名義のもとに現金二千四百円の交付を受けて、これを騙取し、

第十、同年同月二十一日頃、前同市大字堤原島隆三方において、同人に対し、「自分は久留米医大の医者であるが、今日は医者の総会があるのでそれに出席する前に患者の家を廻らなければならない。この機械は普通の電気アンマ器とは異つて、まだ地方の医者は知らない機械であるから地方の医者に自分がすすめて廻つている。これを使えば小児麻痺なら罹病して七年位、中風なら三年位経つた人でも三ケ月位で治る。この機械は非売品で一万円出しても買えない品物であるが、あなたの家には特別に実験用として預けて置くから保証金二千二百円と診断料百円くれ、」と虚構の事実を申向けて、同人をその旨誤信させ、因つて即時同所で同人からドル、バイブレーターの保証金及診断料名義のもとに現金二千三百円の交付を受けてこれを騙取し、

第十一、前同日前同大字提原島善四郎方において、耳病の家人を見て右原島善四郎及び原島甚六に対し、「自分は医者であるが午後は医師会があるのでそれに出席せねばならない。この機械は昨年初めてできたものでこれで治療すれば約三、四ケ月で治る。これは一万円出してもらつても売ることはできない品物で、売れば医師法違反になるので私も貴方も罰されるから売ることはできないが貸してもよい。その代り使用料二千二百円と診断料百円くれ、」と虚構の事実を申向けて、同人等をその旨誤信させ、因つて即時同所で右両名からドル、バイブレーター保証金及び診断料名義のもとに現金二千三百円の交付を受けて、これを騙取し、

第十二、同年三月二十四日頃、同市大字柿原河上甚四郎方において、同人及び河上勲に対し、「自分は久留米医専(久留米医大を指す)から出張して来たものである。この機械は久留米医専には持つているが普通の店では売つていない。あなたが一万円出すから売つてくれと言つても絶対に売ることはできない品物であるが、今日は一台しかないので特別に実験用として貸してもよい、」旨虚構の事実を申向けて、同人等をその旨誤信させ、即時同所で右両名からドル、バイブレーターの使用料及び診断料名義のもとに現金二千三百円の交付を受けて、これを騙取し、

第十三、同年同月二十七日頃、同市大字三奈木字長畑大内田タツ子方において、小児麻痺を患つている幼児を見て右大内田タツ子に対し、「私は久留米医専(久留米医大を指す)の附属電気医療研究所から来たものですが、お宅の子供さんの小児麻痺はこの機械を使つて治療すれば六ケ月で一〇〇パーセント癒ります。この機械は売る品物ではなく、素人が使えば医師法違反になるから実験用として置いておくが保証金二千二百円と診察料百円下さい、」と虚構の事実を申向けて、同人をその旨誤信させ、因つて即時同所で同人から右ドル、バイブレーターの保証金及び診察料名義のもとに現金二千三百円の交付を受けて、これを騙取し、

たものである。

尚被告人は昭和二十四年十月二十一日福岡地方裁判所において強盗傷人窃盗罪により懲役十年に処せられ現に仮出獄中のものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

刑法第二百四十六条第一項、第四十五条、第四十七条、第十条、第二十一条、刑事訴訟法第百八十一条

よつて主文のとおり判決する。(昭和三三年一二月二六日福岡地方裁判所甘木支部)

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